書くことでストレス発散してる

過去の恋愛のおもひでを語る

好きじゃなかった彼氏のこと

就活が終わって一息ついた時、当時付き合ってた彼氏とディズニーシーに行こうと話していた。丁度その時は七夕のシーズンで半袖だけで過ごすのが心地いい季節で手を繋ぐにはすこし暑いなと思っていた。
 

彼とは長い付き合いだった。彼は一年生の頃から私に想いを寄せてくれていた。当時からくっついたり離れたりを繰り返して四年生に上がる頃、復縁という形でまた恋人になることになった。


だから改まって手を繋ぐのが恥ずかしかったし写真を撮るのもイチャイチャするのもなんとなく嫌だった。多分それは気持ちが冷めていたからとかそんな単純な理由だけではなくて、私が彼のことを彼氏として見ることができなくなっていたという明確な理由もあった。


普段は自分からエスコートしないくせに、彼はその日は自分から手を繋いできた。ディズニーの雰囲気がそうさせたのだろう。彼の方をチラリと見るといつもに増してノリノリで楽しそうだった。でも私は五分経つと「暑いね」と薄笑いを浮かべて手を離した。その時の彼の顔は見ていない。


お酒を買おうと言って海の見えるところに行った。七夕の短冊が飾ってあった。せっかくだから書いてみようとなった。私は「第一志望の企業から内定貰えますように」と書いた。彼はそんな健気な私を見て愛しそうに微笑んだ。彼はあの時、願い事を書いたのだろうか。もし書いていたらあの時の彼の願いはなんだったのだろうか。私は彼のことを何も知らない。興味もない。なんのために一緒にいるのだろう。


エレクトリカルパレードを一緒に見た。写真を撮りたかったが、電池がなくなるからという理由で、携帯を機内モードにしていた。彼は最新型のiPhoneを持っていたし私がねだったら喜んでカメラマンになるような男だったからパレードの写真を沢山撮らせた。


パレードが終わった頃、なんとなく携帯の電波を通したら非通知設定の着信履歴があった。その時は分からなかったが、内定の電話だった。それを見た瞬間、ソワソワした。彼とのディズニーシーどころじゃなくなった。「どうしようどうしよう。出られなかった。またかかってくるかな。」焦る私に、彼は「大丈夫だよ。」と優しく言った。たくさん慰める言葉をかけてくれた。


ファストパスの残りも乗りたかったアトラクションも全部終えてもうそろそろ帰ろうと言った。最後に地球儀で写真を撮ってもらおうとした。近くにいた映えに厳しそうな女子高生がいたので撮ってくれと頼んだ。喜んで撮ってくれた。


「キス写真いいんですか?」


顔を見合わせた。満更でもなさそうな彼を見て慌てて言った。


「いや!!!大丈夫です!!ほんとに!!!」


女子高生はなぜか悲しそうに「そうですか。みんな撮ってるのに」と言った。


ごめん、と思った。好きじゃない、と思った。早く終われ、と思った。こんなに楽しくないディズニーってあるんだ、と思った。


その2日後、会社から改めて内定の電話を頂いた。嬉しくて泣いた。就活はすごく頑張ったから本当に嬉しかった。一番は家族に、二番は彼に報告した。彼は「本当によかった。少しだけ電話していい?」と言ってくれた。見てなかったことにして次の日の朝「ごめんね。寝てた」と言った。嬉しくて幸せなはずの朝なのに胸がズキズキ痛んだ。


何もかも解放された私は狂ったように遊んだ。ナイトクラブに行き自分好みのイケメンをナンパして腕の中に包まりくっついたり抱き合ったりした。ディズニーではしなかったキスもした。狂っていた。確かに狂っていた。いや、人間として終わっていた。


その二週間後、ついに自分のしていることに耐えられなくなった私は彼に電話をかけた。「気持ちに応えられなくなった」と話した。頭がイカれていたので、別れ際なのに「もう毎朝おはようってライン来ないの寂しくなる」と言っていた。彼は少しキレていた。当たり前だ。


人生で一番最悪なことをしたし、自分の残酷さにも呆れていた。でも、気持ちに嘘をついて騙し騙し過ごせるほど自分は器用でなかった。結局自分が一番好きで一番大事だった。酷い罪悪感に苛まれると同時に解放感を抱いている自分が憎くてたまらなかった。でもそんなに現実は甘くなく、その罪悪感は時が経てば経つほど濃くねっとりと私を絡み付けていった。


あれからもうすぐ二年が経つ。元気だろうか。さすがにもう私を思い出さなくなっただろうか。もしくはまだ私を憎んでいるだろうか。私は今でもあの時の愚かで自己中で鋭利な自分が憎いよ、ごめんね。


あの時の短冊に彼はなんて書いたのか、それとも書いてすらいなかったのか、少し知りたいと思うのだけれど、私は一生知ることができない。